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ねこ文>妖精と少年



ここは、どこか遠くの、どこか知らない世界・・。
漆黒の闇に包まれた場所…。
人を拒み続ける、深い森…。

「ここはどこ?」
少年が、きょろきょろと辺りを見回す。
暗くじめじめしている森の中で、たたずんでいた。
「どうして僕はこんな所に…」
早くこの森を抜けようと、少年は歩き出した。

いつのまに、ここに来たんだろう…。
それが全くわからなかった。
自分の名前も覚えていなかった…。

「うわっ!」
突然、少年は転がり落ちた。
木の枝に足を引っ掛けたのだろう。

「まいったな・・・。道がわからないや」
どこを見ても、巨大な木が生えているだけで、他には何も無い。
まるで樹海だ。
少年は、涙目になりながらも、必死で歩き出した。

すると、突然目の前が真っ白になった。
「なんだろ?この光は…」
少年は光に包まれていった。
その少年の目の前には、小さな妖精が一人飛んでいた。

「きみは?」
驚いた少年は、恐る恐る声をかけた。
すると、その妖精はいきなりこう言った。
「見ればわかるでしょ!私は妖精よ」
その妖精には、透き通るような綺麗な羽がついていた。
「う…うん。そうだね…。僕、妖精を見たことが無いからびっくりしたよ」
「びっくりしたのはこっちよ…。こんな所に人が来るなんて…」
どうやらこの森の奥に人が来ることはないらしい。
「どうしてこんな所にいるの?」
「僕も、どうしてここにいるのかわからないんです…」
少年は困ったように頭を掻きながら言った。
「まったく。出口を案内してあげるから、ここから出て行って」
妖精は少し怒ってるようだった。
「うん…。ありがとう」
少年は微笑みながら言った。

深い森を、妖精を頼りに、歩いていく…。
「うわっ!」
突然少年は転んでしまった。
どうやら木の根に足を引っ掛けたようだ。
「足元に気をつけなさいよ」
「もう遅いんですけど…」
「その崖から落ちたら、もう二度と助からないから」
少年は、指さされた崖の方を見た。
「うわぁぁぁぁ!!!」
それはとてつもなく高い場所だった。
落ちたら二度と這い上がってこれないだろう。
そこはまるで地獄のようだった。
なにやら骨のようなものが、いくつも転がっている。
「ああなりたくなかったら、気をつけてね」
「はい…」

さらに歩き続ける…。
足が棒のようになりながらも、必死で歩き続ける。
「だらしないわね。早くしてよ」
「君は羽があるからいいよね…」
「羽をずっと動かしているのも大変なのよ」
「そうですか…」
疲れきった少年とは正反対に、妖精は、すがすがしい顔で進み続けている。
「そうにはみえないんだけどなぁ…」
「なんか言った?」
「いや、何も言ってません!」

その時草むらで、ガサッと音がした。
「何だろ…。なんか嫌な予感がする」
「この辺はお腹を空かせた動物が多いからね」
「やっぱり…」
グルルルルル…と、低い声がした。
「うわぁっ!!」
「だらしないわね。戦いなさいよ」
「そんな事言われても…武器は…」
少年が辺りを見ても、武器らしい武器は見つからない。
あるとすれば、これだけ…。
「木の棒…って、こんなのでどうやって…」
「さあ、早く」
「君は飛べるからいいよな」
仕方なく、その棒を向こうに投げた。
その音に反応してか、動物は一直線にかけていった。
「今のうちに…」
少年は急いで向こうまでダッシュした。
息を切らしながらも、ようやく離れることが出来た。
「ほら、早く行くわよ」
「待って…。まだ…休憩…」
「まったく…」
少年が近くの木に寄りかかろうとした、その時…。
突然、木が動き出した。
枝が鞭のようにしなり、少年めがけ振り下ろされる。
「わっ!!」
間一髪でなんとかかわしたが、さらに木は向かってくる。
「なんですか。この木は…」
「この辺の木は凶暴だからねー」
「木に凶暴とかあるんですか!!」
「早く逃げないとやられちゃうよ」
「これじゃ休む暇もないよ…」
残る力を振り絞り、なんとか木から逃れることができた。

「あと少しで出口よ」
「長かった…。って?あれ??」
少年が足を踏み入れたその場所は、何もない真っ白な空間だった。
予想していた空の明るさも、建物も、人も何もない。
ただ白い空間の向こうに地平線がみえるだけだ。
「ここが、出口?」
「そう。ここはあなたの心の中」
「心?…僕はどうなったの?」
少年は妖精に問い掛ける。
「あなたは相当怖い思いをしていたのね…」
「それは、ここまで来るのが怖かったけど…」
「ここまで??ここは最初から何もない空間よ?」
「え…?」
「今までのは、あなたが作り出した幻よ」
「そんな…。嘘だ」
「嘘じゃないわ。今に私も消えてしまう…」
妖精の体の半分が消えかかっている。
「いやだ!消えないで!」
「ここはもともと、あなたの作り出した場所…。だからあなたの作った私は消えてしまう」
「だめだよ!消えちゃ嫌だ!」
「私が消えた時…あなたは現実の世界に帰れる…から、大丈夫」
そういって妖精はにっこりと微笑んだ。
「でも…君のいない世界なんて…」
目に涙をうかべながら、少年は消えていく妖精を見つめていた。
「さよなら…」
「僕は…君が…」
「うん、ありがとう」
そう言うと、妖精は消えてしまった。

――あれから一年の月日が流れた…。
現実世界に戻った僕は、嫌な記憶だけ失っていた。
自分の名前もようやく思い出すことができた。
性格もずいぶん明るくなった。
僕は、今でもあの妖精の事を思い出す。
それをみんなに話そうともおもったけど、妖精を見たなんていうと、頭のおかしい人に思われるから、言うのを止めた。
でも、僕の隣には、今も君がいるような気がした。
僕の心の中に、ずっと…。


おしまい
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