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ねこ文 ゆうしゃ たろう



ゆうしゃ たろう



辺りが暗くなり、街灯に明かりが灯る頃、男は疲れた顔で家路に着く。
男の名前は吉田良夫。ごく平凡なサラリーマンだ。
仕事が終わると寄り道はせずにまっすぐ家族の待つ家に帰る。
電車を降り、駅の近くの狭い路地を通った時、不思議な男に会った。
「そこのダンナ。お疲れのようですな」
不思議な男は深々と帽子をかぶり、ヒゲをはやしていた。
「疲れてますよそりゃ。仕事帰りだもの…」
良夫はため息をついてそう答えた。
「ん?これは?」
明らかに違法の匂いがするゲームソフトが、ござの上にズラリと並んでいた。
どうやら男は、これを売っているらしい。
「…面倒なことには関わらないことにしよう…」
と、帰りかけたとき、男は一本のゲームソフトを差し出した。
「これをもらってくれ」
「いや…ぼくは…」
「金はいいから!」
「いや…しかし…」
「もらってくれるまで粘り続けるぞ!」
男のあまりのしつこさに仕方なく受け取った。
(早く家に帰りたいのに…)
ゲームソフトを受け取ると、良夫は家に向かって歩き出した。

「ただいま〜」
良夫が玄関に来ると、小さな男の子が駆け寄ってきた。
「パパ、おかえりなさい」
「ただいま。学校は楽しかったかい?」
「うん。とっても楽しかったよ」
と、男の子はにっこり微笑んだ。
男の子の名前は太郎。小学1年生。
勉強はそこそこできる子で、良夫の自慢の息子だ。
「あなたお帰りなさい」
と、妻も出迎えてくれる。
上着と鞄を妻に渡すと、太郎に、
「そうだ、今日はプレゼントがあるんだ」
といって、あのゲームソフトを渡した。
「ありがとう。でも、何これ?」
「それは僕にもわからないけど…なんか変な人にしつこく粘られて、仕方なく貰ったんだよ」
「まあ、最近物騒だから気をつけないと…」
と妻の由子が言った。
「まあありがとう。早速やってみるよ」
「何にせよ太郎が喜んでくれてよかった」
と、良夫はほっとした。

「これRPGなんだ」
部屋で太郎はゲームに熱中していた。
そのゲームは、まだ幼い勇者がさらわれた姫を助けるために魔王を倒すというごくありふれたRPGだった。
ゲームの勇者の年齢は、太郎と同じ7歳だった。
「太郎ーごはんよー!」
太郎はゲームに熱中して、その声が聞こえていなかった。
良夫は二階の太郎の部屋に行き、注意をした。
「まあまあ、ゲームは後にしてご飯食べよな?」
「…あ、ごめん。今日は食べたくない」
と、部屋から声がした。
「育ち盛りなんだからご飯は食べないといかんぞ?」
「ぅん…」
いやいやドアを開けて一階に下りる。
食事中、いつもは会話が弾むはずなのに、どこか暗い。
食べ終わると、
「ゲームは時間を守ってやるんだぞ?」
と言うが、「うん」と返事をするとまた二階でゲームをやり始めた。

次の日…。太郎は学校を休んだ。
何をいっても部屋から出てくる様子はない。
「おーい!太郎。どうしたんだ。入るぞー」
良夫はドアを数回ノックしながらそう言うと、太郎の部屋に入った。
そこには太郎の姿はなく、テレビがついたままだった。
「太郎の奴、どこかに出掛けたのかな…」
テレビのモニターをみると、あのゲームの画面が映し出されている。
その少々古臭いゲームは、どこか懐かしさを感じさせる。
太郎が途中で投げ出したのか、ゲームの中の主人公は止まったまま、誰かが操作するのを待つように、じっとしていた。
その目の前には、誰か人が倒れていた。…いや、死んでいるのだろう。
良く見ると、目の前に立つ主人公が誰かに似ている…。
「まさか…」
途端に良夫は恐怖を感じ、がくっと床にへたりこんだ。
「太郎…そんなバカな!!」
「あなたー!早く行かないと会社に遅れるわよー」
と、下から妻が呼ぶ。
「それどころじゃないんだ…」
「え?」
(これは妻には言わない方がいいかもしれない…)
と良夫は思い直し、「いや、なんでもない」と言った。
「僕は体調が悪いから今日は会社を休むよ」
と、仮病を使って休むことにした。

「さて…どうしたものか…」
テレビのモニターを見てしばらく考え込んだ…。
「そうだ!ゲームをクリアすれば助かるかもしれない」
良夫はコントローラを握る。
「ゲームなんて何年ぶりだろう…」
懐かしい感覚がこみあげてくるが、今はそんな感傷に浸っている暇はない。
一心不乱に良夫はゲームをやり続けた。
しかし、敵にダメージをうけ、苦痛に歪む太郎の顔を見ているのが辛かった。
でも、やらないわけには行かない。
回復などを繰り返し、良夫は徐々にゲームに慣れていった。

その後ずっとゲームに没頭していった。
なんとか最後までたどり着き、ラスボスが現れた。
「今までの成果を見せてやる」
良夫はラスボスと死闘を繰り広げた。
炎を吐き、太郎の体力も限界になる。
「まずいぞ…。このままでは太郎が…」
良夫は祈った。
祈りに答えるように、太郎は渾身の一撃を放つ。
その一撃でついにラスボスを倒した。

すると、突然画面が消えた。
「あれ?どうなってるんだ!!」
良夫は驚き、テレビのモニターを眺める。
すると、テレビから太郎がすっと現れた。
「太郎!」
「パパ!!ぼくやったよ!」
二人は抱き合い、感触を確かめた。
「たしかに本物だ!良かった」
再開の嬉しさと同時にあの変な男に怒りを覚えた。
「それにしても、こんなゲームをわたしやがって!!文句言ってくる!!」
「パパ。もういいよ」
怒りを抑えきれずに、太郎の制止も聞かずに良夫は家を飛び出した。

どこにいるのか大体見当はつく。
駅の近くの狭い路地だ。
今もそこにいるのかどうかはわからないが、そこしか思い当たる場所はない。
すると、そこ帽子を深々と被り、ひげを生やしたいかにも怪しい男がいた。
「おい!なんだこのゲー…」
「おお!!あなたが私共の世界を救ってくれたゲーマーですね?」
良夫が怒るより先に、その男は感動して泣き出した。
「なんだ、その私共の世界って!馬鹿にしてるのか!」
「いえ。あれが私の世界なんです。私は遠い星からやってきたのですが…」
すると、男は事情を説明しだした。
「私の世界ではとんでもない魔物が現れて、それを倒してくれる勇者を探していたのですが…この世界にはいなかったのです…」
男は一息つくと、また語り始めた。 「
そして、私はこの星にたどり着き、勇者を探した。そこで見つけたのです」
「それは一体…」
「ゲームソフトですよ!あのゲームには強い勇者がたくさんいる。
だから私はゲーム感覚にして魔物を倒せたらいいと思ったんです」
良夫は、その話を呆然と聞くしかなかった。
あまりにも発想が現実離れしているからだ。
「ただゲーム感覚にするにも問題があった。それは強いゲーマーで
なければ、いくら強い勇者でもやられてしまうということです。死んでは元も子もありませんから」
「そのゲーマーが僕…」
「あなたは良くやってくれた。これで私は自分の星に帰れる。ありがとう」
そういうと、男は消えていった。
良夫は怒ることも忘れて、あっけにとられていた。

すると、突然目の前が真っ暗になった。
目をあけると、太郎の部屋だった。
「パパおきた?」
テレビの画面は真っ暗だ。
「どうしたの?ずっと真っ暗なテレビにかじりついて」
「へ?おかしいな。確かにあのゲームをやってたはずなのに…」
「ゲーム?僕の部屋にはゲームなんてないよ?」
「そんな馬鹿な!」
部屋を見渡すが、確かにそれらしきゲーム機はない。
「夢でもみてたんじゃないの?」
「…そうかな。おかしいな…。何かあったような気がしたんだけどなぁ」

すると、テレビ画面に文字が浮かぶ。


あなたのデータはきえてしまいました▼


その文字に二人とも気付くことはなかった。




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